ONTARIO OUTDOOR ADVENTURES
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ターザン2006年特別編集号
マガジンハウス
生涯ターザン宣言」


文/木村東吉(62-67ページ)
撮影/中村隆之 

カヌー愛好家の聖地、カナダ・アルゴンキン。
北の地に眠る、幾千もの湖と深い森。カヌー乗りのパラダイス、ここにあり。

 カナダ東部、東京都の3・5倍の土地に2000以上の潮と広大な森を抱 えるアルゴンキン州立公園この地では、古くから樺の樹皮でバーチバーク カヌーを作ってきたネイティブと、17世紀以降にヨーロッパから移住してき た白人たちの手により、建造技術や漕法が磨かわてきた。いわばカヌーにと って、ひとつの「聖地」だ。今も問界中からカヌー愛好者を集めている。  それは「カヌーと共に暮らしたいから、河口湖湖畔に移り住んだ」という 東吉さんにも言え世ること。いつかは行ってみたい場所だった。  そして、その日が来た。8月初旬のある朝、念願の旅が始まったのだ。

カヌーで進む4泊5日
 キャンプ生活を重ね大小の湖を結んだルートは、 全長約90キロ。湖同士は細い水路でつながっていることが多いが何十 キロもあるキャンプ道具やカヌーを自ら担いで移動する ポーテージが必要な箇所もある。遮るもののない湖の上では、 強風つが吹けば簡単に前に進めないし、海と見紛うほどの波も立つ。 浅瀬では、ビーバーが幾重にもダムを作り、前進するにはその都度 カヌーから降り、力一杯押すしかない。 肉体的にはかなりキツい旅だ。しかし、車や飛行機といった移動手段が発達す る中で、敢えて自分の力だけを動力にして、気の向くままに水面を進む。そ れは同時に無上の贅沢でもある。  漕ぎ、歩き、食い、語る。朝日とともに起き、夜更けを待たずに眠りに就 く。毎日、それを繰り返す。単調だが、飽きることはない。むしろ、自然のリ ズムに沿った生活になり、カラダがどんどん活性化する。漕ぎ始めたばかり の頃は、水と風の音しか聞こえなかったはずなのに、気がつけばさまざまな 音が自然と耳に入ってくる。自然のチカラとは、こういうものなのだ。  アルゴンキンは、実に植生が豊かだ。森を形成するホワイトパインやメイプ ルから目線を下ろせば、足元には野生のラズベリーやブルーベリーがたわわ に実を付けている。動物作家シートンが暮らしたロッジもこの地にあり周辺にはブラックベア、オオカミ、ムー ス(ヘラジカ)といった大型の哺乳類や各種のトラウト、さらには260種 もの鳥が生息しているという。  なかでも、赤い目が特徴的なアビは、アルゴンキンを深く印象付ける存在だ。 求愛、警戒、仲間を呼ぶためと、この鳥はいくつもの声で嗚き分けるが、ど んな声色が聞こえるかで、聞く者の心まで左右される。東吉さんの心をとら えたのは、静夜にこだまするアビの求愛の声だったという。どこまでも広が る漆黒の森の懐に張ったテントの内で、何を思い、何か感じたのだろう?

P.62 写真キャプション
肉体を酷使するハードな旅だからこそ、休みの時間には大いに寛ぐ。
カヌーの旅は、漕ぐだけではない。あるときは担ぎ上げ、 陸路を歩く。またあるときは2人がかりで持ち上げ、浅瀬 を乗り切る。雨が降れば、タープの下で、一休みだ。

大自然の恩恵に満ちた、オンタリオの魅力。
あのナイアガラ近郊に財界有数のワイン産地が。 この地には、旅人を癒すだけの懐の深さがある。

 日本の26倍の国土を持つ、広大なカ ナダ。とかく雄大な自然に目が向きが ちだが、新旧の文化をはじめとした奥 深い魅力に満ちている。大自然に抱か れてカヌートリップを終えた東吉さん、 今度は文明の利器かフル活用して存分 に旅を満喫した。  アルゴンキン州立公園内には、いく つかの。ミュージアムが自然に溶け込む ように佇んでいる。そのひとつが、ク ルマでも行ける『ロギング・ミュージア ム』。ロギング(水材伐採)に焦点を 当て、アルゴンキンとカナダの歴史を 実感できる場所だ。  アルゴンキンの森林は、一度大部分 が伐採され、ヨーロッパに輸出されて いる。そしてその貿易により、カナダ は国力を付けていった。ある意味、森 林環境の破壊を代償に大きな成長を遂 げたわけだが、現在のアルゴンキンの 森の多くは、当時の反省を元に人の手 で再生させた二次林なのだ。ナチュラ リストならずとも興味深い事実だ。  もうひとつ、アルゴンキンを語る上 で忘れてはならないのは、ネイティブ と呼ばれる人々の歴史や文化だ。それ を垣間見たのは、毎年8月初旬に開催 される「パウワウ」という祭りだ。こ の祝祭の参加者たちは皆、現在は混血 化が進んで肌の色こそ違えども、先住 民(ネイティブ・カナディアン)の血 が流れている。彼らは今、部族間の垣。 根を取り払い、さまざまなネイティブ が年に数回森に集まって、祖先への感 謝を捧げている。「移民文化がスタン ダードになった今こそ、ネイティブ古 来の文化を伝え、広めたい」と彼らは 語る。それゆえ本来、内輪の神聖な儀 式で撮影も認められないものだが、慎 み深く見学すれば旅人も歓待してもら えるのだ。

圧倒、ナイアガラ大瀑布
 東吉さんはアルゴンキンを後に、ハ イウェイを南下する。トロントを通り 越し、アメリカとの国境にあるのがナ イアガラだ。この滝は五大湖のひとつ、 エリー湖から激しく流れ落ちる水が作 り出す巨人な芸術。滝は大きく2つに 分かれ、カチダ滝は高さ54m、幅67 5m、アメリカ滝は高さ56m、幅32 0mになる。この先はオンタリオ湖へ と流れ込んでアルゴンキンからの流れ と交わり、やがて大西洋に注いでいく。
 巨大なナイアガラの滝を前にして、 さしもの東吉さんも言葉少なげ。近年 運河や小刀発電所を汗ったことで水量 が減少し、昔ほどではないと言われるが、まだまだ迫力は十分。水の飛沫を  風に乗せ、観先客に降りかけてみたり、  かと思えば目の前に美しい虹を出現さ  せてみたり、見飽きることはない。
 東吉さんは、「ナイアガラ・ヘリコ プター・ッアーズ」社の遊覧飛行を体 験した。上空から入湯布を見下ろす12 分間のフライトには、陸上で観たナイ アガラとは違った、ダイナミズムに溢 れでいる。その光景を目の当たりにし た搭乗者は、感嘆のあまり、カメラの シャッターを押しまくる。東吉さんで さえ、ヘリコプターが滝の上空に来た ときには、カメラに記録を残すべきか、 心に記憶させるべきか、ちょっと悩ん でいたようだった。
  大観光地には、人気を集めるそれなりの 理由がある。畏敬せざるを得ない、 圧倒的な存在感。さすがは、南米のイ ゲアス、アフリカのヴィクトリアと並 ぶ、世界3大瀑布なのだ。

酒なくして、何か人生
 話は替わっで、アルゴンキンのカヌ ートリップでの出来事。一切の補給が できない旅の最中で大切な酒を切らし た東吉さんは、ガス欠ならぬ「アル 欠」を起こしていた。「ワインがない と食事もおいしくない」という東吉さ んにとって、カナダの旅で心にくすぶ る唯一の失敗だったのだ。  そのときの欠乏感はなかなか癒えず、 ナイアガラの地では周辺のワイナリー を訪れることに。今回足を延ばしたの は「ヒルブランド・エステーツ・ワイ ナリー」。カナダで最初にアイスワイ ンを作り出し、現在ではマイナス10で の気温下で手摘みしたヴィダル・プラ ン種を基に、糖度の高い白のデザート ワインで知られている。  「ハードなアウトドア旅の後は、うま いものを飲んで食う。これこそが、大 人の旅なんだよ〜」と、東吉さん。
 まずは、併設されたレストランで、 地元の素材をふんだんに使ったフレン チに舌鼓。気持ちとお腹を落ち着かせ てから、醸造過程や貯蔵庫、裏手に広 がるブドウ畑を見学する。  とはいえ。一番の楽しみは、やっぱり ショッビング。東吉さんは、店員と話 しながらテイスティングをくり返す。 喜びにほころぶ表情を押し殺している のだろうか、真面目すぎるほどの顔を して自分好みのワインを探している。 カヌーといいワインといい、好きなも のには本当に真剣なのだ。
 顔を赤くさせながら試飲を重ねて納 得のいくワインを探し出した東吉さん、 満足そうに何本ものボトルを抱え、カ ナダの地を後にしたのだった。

P.64-65 写真キャンション
ロギングミュージアムで展示されている、 昔の木材運搬船。カナダの開拓史の1コマ。
アルゴンキンの森でネイティブの儀式に使われ ていたティピィ。入リロにはオオカミの頭が!

ナイアガラ観光の定番、ヘリコ プター遊覧を前にしての1枚。
あまりにも大きい!上空から観たナイアガラ の迫力には、東宮さんも圧倒されたほど。
カナダで初めてアイスワインを製造した由緒正しい ワイナリーが、ここヒルプランド・エステーツ・ワイナリー。

より深く、より広く。我々が生きる自然を知りたい。
アビは4種類の鳴き声を上げます。と言いながら、カヌーツアーガイドのカツは、カーボンシャフトのパドルを静かに湖面に入れた。
 「笑っているような声がトレモロといって警戒している様子、ヨーデルという鴫き声も警戒心の一種です。フートというのが家族への呼びかけて、コヨーテの遠吠えに似ているのがウェイルといって求愛の鴫き声です」 
 ボクはその説明を聞きながら、ある歌を思い出していた。 「男が女を愛する時」という歌は多くのアーテイストがカバーしているが、元S&Gのアート・ガーファンクルもこの曲をアルバムに取り入れている。で、その曲の冒頭にこのアビの「ウエイル」が挿入されているのだ。 
 その時までは。コヨーテの遠吠えだと思っていたが。この説明でボクは膝をポンと叩いた。  
「アビはオンタリオ州の州鳥にもなっており、1ドルコインにも採用されていますアビは英語でルーンと言いますがで、カナダでルーニーと言えば、1ドルコインを指します。」 カツは日本で知り合ったカナダ女性と結婚して、日本から
カナダに移住しで10年になるというが、力ナダのこと、カヌーのこと、そし て特に鳥の生態についで詳しい。  
アビは水中60メートルの深さまで潜ることが出来る潜水のプロです が、その足の形状から離陸が下手で水上からじゃないと上手く飛び 立てないんです。
 そう言った後、カツはカヌーの上で、髭で隠した幼い顔を綻ばせた。
 今回の取材は、アルゴシキン州立公園内に流れる無数の川、そして そこに点在する湖をカナディアン・カヌーで下ること。だが「下る」 と言っても、流れはほとんどない所なので、我々は己の手にパド ルを握り、そいつで氷を掻き続けなければならない。
 その5日目間の旅の途中、我々は多くの動植物に会ったが、その中 でもボクの印象に強く残ったのが、このアビという水鳥だった。  特に深夜、小さなテントの中で聞くアビの「ウエイル」が、ボクの 旅愁を強く刺激した。  
 一昨年の秋に取材でスイスに行った。 
 アイガーの麗の街である「グリンデルワルト」、そして世界遺産に 指定された、アレッチ氷河の玄関口であるリーダーアルプの街に滞在 したが、その旅をサポートしてくれたマサヨは学生時代に競技スキー をやっていたが、卒業後は本場スイスでスキー・ガイドに従事してい た。今ではスィス政府観光局に勤務しているか、スイスのことを心か ら愛しており、そのPRに余念がない。
 そのスイスの旅の途中でも、我々はいろいろな「ガイド」たちに出 会った。
 ユングフラウをガイドしてくれたブルーノ・ジュレビ氏は、36日目間 で4000メートル以上のスイスの山々の頂に48回も立った、スイス 山岳界の英雄である。父親から誕生日にプレゼントされた[ペント] のピッケルを片手に、今日も山に登り続けている。
 アレッチ氷河をガイドしてくれたアルトゥール・フラー氏は、若い 頃はアメリカで暮らしていたが、その後、生まれ故郷のりリーダーアル プに戻り、今ではホテルやレストランを径営する富豪でもある。すで に60歳を過ぎているが、女性を口説くジョークが大好きで、通訳をする マサヨを機会がる毎に口説いていた。が、そのガイドぶりは実に見事で、 我々を安全に、かつ、確実に氷河トレックに誘ってくれた。来年には長年 の「ガイド業」を称えられ、スイス政府より功労賞を与えられると言う。  
色々な旅の途中で、ボクは多くの優れた「ガイド」に出会った。彼らは 、己の愛する山、河、海、森、野、道、あるいはそこで繰り広げられる多 くの楽しみを、人々に伝える事で大きな喜びを見出し、その職務を心から 愛している。  誰もが子供のような純真な瞳で自然を見つめ、誰もが老人のような柔和 な口調でその偉大さを語る。
 冒頭でアビの鳴き声の話をしたが、そのアビのように、時には自然の中で 「警戒心」を伝え、時には「仲間に呼びかけ」をする。だがほとんどの場合は 、アビの求愛の鳴き声である「ウエイル」のように、その地に対する溢れる 愛を伝えるために、彼らは行動し、口を開く。  河口湖の湖畔に暮らし始めて、すでに11年が経過した。その間に、ボクは 多くの湖を漕ぎ、山を歩き、樹海のトレイルを走り、時にはその洞窟の中に 足を踏み入れた。
 富士山の北麓に広がるこの地は、富士山の幾度もの噴火によってその地形を 複雑に構成し、変化に富む自然形態を作り出した。
 かつて湖底だった山の頂、溶岩に覆われた森、そしてその溶岩によってでき あがった無数の洞窟。 幾千年もの歳月に思いを馳せ、悠久なる自然の鼓動に歩を合わせる。 もっともっと自分が暮らす、この自然環境のことを知りたいと思う。
そしてその 自然の素晴らしさを、ボクが今までに出会った優れたガイドたちのように、情熱 を以って伝えたいと思う。 男から女へ、友から友へ、親から子供たちへ、そして次の世代へ。 どんな小さなことでもいい。 深い愛情と情熱で、自然の素晴らしさを伝えることができれば。 夜明けの湖畔に響き渡る、アビの深遠なる鳴き声のように・・・・。

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●きむら・とうきち 1958年大阪生まれ。『ポパイ』などでモデルとして活躍後、アウトドアスポーツの世界へ。トライアスロンで訪れたミネソタでカナディアンカヌーと出会い、以来のめり込む。現在、河口湖に自宅を構え、アウトドアエッセイストとしても活躍中。

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