◆ニューズレター
Backyard Winter 07
ホワイトパインの森、アルゴンキン
こんな事を言うと皆さんに笑われてしまうかも知れませんが、私は根っからの 「自然愛好家」です。大きくそびえるホワイトパインやレッドパインの枝を吹き抜ける風、そんな音に耳を傾けるのが私は大好きです。こうした音を聞いていると、今まで停泊した多くのキャンプサイトを思い出し、そこへ私を連れ戻してくれるのです。

「パイオニアロガー」と呼ばれたカナダの開拓者であるきこり達が 1800年代初頭にこのアルゴンキンの地に魅せられたのも、この大きなホワイトパインだったのです。イギリス軍艦のマストや、柔らかく加工し易い事から家具などに多用されたのです。今では想像もつきませんが、当時は直径数メートル、高さ40m以上もの巨大なホワイトパインの原始林が広がっていたのです。当時の面影は今ではほとんど見ることは出来ませんが、それでも公園内の数箇所に当時切られずに残ったホワイトパインが大きく育ち、当時の面影を残しています。その内の一つが、カヌーでアクセス出来る「ビッグクロウネイチャーリザーブ」で二つ目が、国道60号沿いのトレイル、「ビッグパイントレイル」です。 ホワイトパインとレッドパインは公園の東に多く見られます。その理由は1万1千年前に氷河が溶けて後退した際、多くの砂をこの東部に残した事と、標高が170mと西部よりも低いことからより暖かく、乾燥している事が松の生育環境に適していたのです。これらの松が発芽する条件として種が土壌に付着する事ですが、度重なる山火事のお陰で腐葉土が焼け土壌が露出し、周りの木が焼け十分な日射が得られ大きく成長出来たのです。

アルゴンキンを代表する針葉樹林には、ホワイトスプルースとブラックスプルースと呼ぶトウヒの仲間も挙げられます。両種ともカナダ全土に広がり主要なパルプ材として利用されています。ホワイトスプルースは湿った水はけの良い土地で、広葉樹林と混在しますが、少し小さなブラックスプルースはより北の亜寒帯地区のミズゴケなどの生える湿地帯に多く見られます。スプルースの発芽率も非常に低いのですが、その反面多くの野生生物の重要な食料となっています。 とりわけ、イスカやキツツキ達にとってはアルゴンキンの厳しい冬を越す上で不可欠な餌の供給源となっています。

イスカのくちばしは松かさをこじ開け、中の種を取り出すのに都合の良い形状に発達しましたが、今回紹介するダウニーとヘアリーなどのキツツキ達のクチバシも木の中に巣を作って入り込んでいる虫を捕まえ易い構造に発達しています。ダウニーはその短いクチバシで細い枝の虫を主に捕まえ、より長いクチバシのヘアリーは太い幹の中の虫を捕まえます。彼らは他の小鳥達の群れに交わる事で身を守っています。大きな穴を開ける事で知られるパイリエーテッド・ウッドペッカーも冬でも活発に活動するキツツキです。彼らの空けた大きな穴が様々な動物達の冬の住処に利用されています。 こうした大きな木が提供してくれる住処を見ると、主人のスティーブと息子のデビッドの家族3人で、アルゴンキンのティーレイクの北でキャンプした時の事を思い出します。レッドパインに囲まれた気持ちの良いサイトでしたが、その夜は暴風雨の嵐になってしまったのです。朝起きてみると周囲の木はなぎ倒され凄まじい光景でしたが私達のテントはびくともしませんでした。大きな松の木が私達を守ってくれたのです。荷物をカヌーに積んで湖面に出ると、浜にキャンプしていた多くのキャンパー達のテントは吹き飛ばされ、周囲のダメージがより大きな事に気づかされたと同時に、松の木のありがたさを再認識させられたのでした。

2007年も皆様にとって良い年である事をお祈り致しております。是非皆様も私達と一緒に一生の思い出となる自然の旅に出かけてみませんか?


冬のアルゴンキンで見られるキツツキ達
雪に閉ざされたアルゴンキンの森を歩くと、チカディーやナットハッチ達に混りせっせと餌を探すキツツキを良く見かけます。彼らが木を叩く「ドラミング」や鳴き声は夏から秋にかけて良く耳にしますが、木の葉が邪魔なのと警戒心が強い為姿を見る事はあまり出来ません。森で大小無数の穴が空いた木を見かけると、硬い木に穴を空ける彼らの力には驚かされると同時に、脳震盪が起きないのかといつも不思議です。今回はそんな素朴な疑問を解明するとともに、冬でも活発に行動する3種類のキツツキを紹介します。 ウィンターネイチャーツアーに参加すると、スノーシューやクロスカントリースキーをしながら彼らの生態を観察する事が出来ます。

キツツキが脳震盪を起こさない秘密
木を突付く理由は餌を探す為ばかりでなく、巣穴を空けたり縄張りの主張や春先の求愛行動の為の「ドラミング」など様々です。叩く回数は1分間に300回、1日に何と8000〜12000回にも及び、頭に伝わる衝撃は時速25キロで壁に頭をぶつけるのと同じです。しかし彼らが脳震盪を起こす事はありません。その秘密は彼らの頭の構造に隠されています。先ず、頭骨が肉厚で中がスポンジ状になり衝撃を吸収する事。次に頭骨上部の畝が嘴をしっかりと固定しているので、衝撃で嘴が頭にのめり込む事が無いばかりか、衝撃がこの畝を伝わり頭の上部やサイドに拡散されるのです。そして、強力な筋肉が嘴の根元と首にあり、力強いピストン運動を生むと共に衝撃吸収にも役立っている。さらに、彼らの長い舌は嘴から13cmも延ばす事が出来るのだが、「舌骨」と呼ばれる長い軟骨状の基幹部があり、これが収縮時は頭骨の周りを覆っているので緩衝材の役目もしているのです。この様にキツツキの頭は強い衝撃に耐えられる構造になっているのです。 こうした頭の構造の他、木を突付く為に適応した点が幾つか挙げられます。ドラミング中は目をつぶることで、おが屑が目に入らないばかりか、目が外に飛び出すのを防いでいる。また鼻腔の周辺の毛もおが屑が鼻に入るのを防いでいるのです。

パイリエーテッド・ウッドペッカー
Pileated Woodpecker /Dryocopus pleatus キツツキ科 カンムリキツツキ
体長約40cmと北米で最大のキツツキ。英名の「パイリエーテッド」とは赤くふさふさした頭のカンムリ「羽冠」の意。日本で天然記念物に指定されているクマゲラの仲間である。雌雄とも体は真っ黒で顔から首に白い筋があり、羽の裏も白。クマゲラは体も顔も真っ黒である。大きなドラミングの音に「ケッケッケッケッー」という甲高い鳴き声、木に空いた30-50cm程の縦長の餌穴があったら彼らが居る証拠である。餌はオオアリやカミキリムシの幼虫である。巣穴はこぶし大。日本での生息地は北海道と青森・秋田の県境にある白神山地のみで絶滅危惧U類に指定されている。日本では森林伐採が進み、巣に適した大木が少なくなった事が大きな原因である。アルゴンキンではまだ比較的良く見られるが、森林開拓が進んでいる地域では減少していると言える。大木の茂る広い森林が必要な事や、彼らの空けた大きな穴が様々な野生動物の住処に利用される事などから、環境のバロメーターとも言える「指標鳥」でもある。

ダウニー・ウッドペッカー Downy Woodpecker/ Picoides pubescens キツツキ科セジロコゲラ
体長約17cmとスズメより少し大きいが北米で最小のキツツキである。嘴は頭より短い。頭部に白黒の筋があり、黒い羽に白い斑点があり体は白である。オスの後頭部は赤いのでメスと見分けられる。アルゴンキンで最も良く見かけるキツツキであり、チカディーの群れに混じって餌を探すのがこの種である。彼らはチカディーの群れに混じる事で、餌探しに集中出来ると共に外的から身を守っているのである。餌は木の中の幼虫や木の実・種など。巣穴はゴルフボール大。オスはメスより細めの木を捕食木に選ぶ事がリサーチの結果分かっている。これは雌雄間の捕食競合を避ける為と思われる。

ヘアリー・ウッドペッカー Hairy Woodpecker / Picoides villosus キツツキ科セジロアカゲラ
色や形がダウニーと良く似ているので見分けが難しいが、体長約24cmと一回り大きく、嘴も長く頭とほぼ同じである。また、外側の尾羽が真っ白で、黒い斑点のあるダウニーとは決定的に違う点である。巣穴はゴルフボール大。容姿の似たこの2種は生息環境もほぼ同じであるが、嘴の長さの違いにより捕食競合を避けている。嘴の長いヘアリーはダウニーより太い木を捕食木に選ぶが、仮に同じ木を突付いたとしても餌に届く距離が違うので共生出来るという訳である。


アルゴンキンの針葉樹林
紅葉の季節にアルゴンキンを訪れると、メープルの真っ赤な森とそれを縁取る緑の針葉樹林とのコントラストの美しさに気づかされます。紅葉が終わるとこうした針葉樹林が目立ち始め、雪に覆われる季節になると今度は雪の白さとのコントラストが引き立ちます。アルゴンキンには10種類の針葉樹林が自生しており、様々な野生動物達が厳しい冬を乗り越えられるのも、こうした針葉樹林のお陰とも言えるでしょう。今回は、代表的な針葉樹3種について解説します。

ホワイトパイン  White Pine/ Pinus strobus マツ科ストローブマツ
公園の歴史及びカナダの歴史を語る上で最も重要な木がこの種で、オンタリオ州の州木に指定されている。1800年代初頭から始まったこの松が契機となり州立公園の制定に至った。(詳細はニューズレターの2002年夏号と2003年冬号を参照)殆どの松が当時伐採されてしまい、国道60号線の走る西部では大木あまり見られないが、東部ではまだ多くの大木が残り、重要な木材として現在も伐採が続けられている。水はけの良い砂地や岩地で、日当たりが良く暖かい場所を好む。直径1m、高さ30m~40mに真っ直ぐに伸び、樹皮は灰色がかった緑色。この白っぽい樹皮からその名が付いた。樹形は幼年期には円錐形だが成長するにつれ非対称になる。アルゴンキンではメープル森の頂きから飛びぬけて一際目立っているので直ぐに見分けられる。葉はしなやかで5~15cmと長く、5本1組である。日本では盆栽や庭木で人気の高い「五葉松」の仲間である。松かさは8〜20cmと長く下に垂れ下がり、曲がる場合が多い。


レッドパイン  Red Pine/ Pinus resinosa マツ科アメリカアカマツ
遠くから見るとホワイトパインと間違え易いが、レッドパインの樹形は球形にまとまり対称である。近づくと樹皮がその名と通り赤く、葉は2本1組なので直ぐに見分けがつく。松かさは4〜7cm。ホワイトパイン同様、水はけの良い砂地や岩地で、日当たりが良い暖かい場所を好み、高さ25m位まで育つ。こうした条件を整えてくれるのが山火事であり、レッドパインの生育と山火事は密接に関わっている。山火事により他の木や落ち葉が無くなり、露出した土壌に種が落ちて初めて発芽する。また、耐火性が強いので山火事から生き残る場合が多く、山火事の回数を割り出す事にも役立っている。アルゴンキン公園内で一番古い木はDickson Lakeにある樹齢約350年のレッドパインである事も頷ける。


ホワイトスプルース White Spruce/ Picea glauca マツ科トウヒ属 シロトウヒ(カナダトウヒ)
カナダ全土に広がっている種で、パルプ材や建築材としても重要な木材である。モミと並んでクリスマスツリーに多用される木でもあり、樹形は円錐形で枝ぶりも良い。高さ25m、直径60cmで幹は灰色。葉は1.5-2.2cm松かさは5cmと一番大きく、枝は淡い黄褐色。スプルースはどれも日射の少ない場所でも育ち、湿った土壌を好む。この種は広葉樹林帯にも自生するが、他の木が茂っているので十分な日射が得られないばかりか、枯葉により発芽しにくい条件である。そこでこの種は非常に多くの種子を生産しばら撒く事で発芽率を高めている。1ケの松かさに約130コの種子が入っているので、1本の木で1万個の松かさがあれば130万個の種が生産されるという訳である。ただこうして大量に生産された松の実も殆どがリスやネズミ、野鳥達の冬の重要な食料となってしまい、子孫繁栄になかなか繋がらない。また、冬の間はスプルースの葉はムース(ヘラジカ)の主要な食料となっている。多くの野生動物達が厳しい冬を生き延びれるのもこうしたスプルースのお陰である。

ブラックスプルース Black Spruce/ Picea mariana マツ科トウヒ属 クロトウヒ
アルゴンキンでは平均10mと低い。葉の長さは約1cmと他の2種に比べて一番短い。小さく短い枝は垂れ下がりホワイトスプルースと比べると見劣りするが、驚くべき適応力を身につけている。この種はカラマツと同様、「パイオニアツリー(先駆種)」と呼ばれボグ湿原や湖周辺などに生育する最初の木である。ボグ湿原は養分も少なく、地面はミズゴケなどに覆われているので発芽には適さない。そこでこの種が身に付けた適応力とは、一番下の枝が垂れ下がりミズゴケなどの地面に触れると、そこから根を張り出し子孫を増やす言わば「取り木」が出来る様になった事である。スプルースグラウス(ハリモミライチョウ)はこの葉を食べて越冬し、カナダカケスは主にこの木に巣をつくり、まだ雪の多い早春から子育てを始める。アルゴンキンでは商業的価値は少ないが、カナダ北部の亜寒帯ではこの種がほとんどを占めており、主にパルプ材に使われている事からカナダ全体では重要な輸出品目となっている。

レッドスプルース Red Spruce/ Picea rubens マツ科トウヒ属 アカトウヒ
高さ20〜25m、幹が赤みを帯びている。アルゴンキンでは西部の一部で自生しているのみ。主要な自生地はカナダ大西洋岸でノバスコシアの州木。涼しく湿った土壌を好み、他の2種に比べ日射が少なくても育つ事が、標高が高い公園西部のツガや樺の森で見られる理由である。ホワイトスプルースに良く似ている為間違い易いが、樹形を細かく見ると見分けがつく。円錐形の勾配が急で、先端が鋭角。枝と枝の間に隙間が多く幹が見える。また張り出した枝の先端が上に向き、パゴダの様である。


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